昭和の伝説の進学塾の本を読んだ。
30年ほど前に閉塾したのだが、当時は灘高校への合格率日本一を誇った伝説の塾だそう。
本書は過去に出された3冊の書籍を再構成したもの。
全体的に昭和を感じる。
できなくて先生に殴られるとか、便所掃除とか…。
でも、そこで一番教えたかったのは人間力なんじゃないかと。
読みやすいが、ページ数もそれなりにあり、何よりその熱さに読んでいて少し疲れてしまった。
ただ、特に前半は、公立中学校へ通わせている、または通わせる予定の方には大変有用かと思う。
受験テクニック重視の現在の勉強法とは一線を画しているが、自分との戦い、自分を信じて進むことが大事なんだと思わせられる。
共感したのは、大学受験へ向けてについて。以下要約。
子どもが学業で成績をあげられないのは親の責任として条件をあげている。
まず、中学校は大学へ行く生徒を育てるところではないので、大学に進学させたい親は我が子に他の級友のすることと同じことをさせてはいけないし、先生の指導に対しても、そのまま服させてはいけない。
これは、大学への進学率が今よりだいぶ低かった時代だからなおさらだと思うが、今でも公立の中学校の多くには当てはまるのではないかと、周りの中学生の話を聞いていると思う。
また、二つ目は、中高生への指導は学校制度を親が正しく認識するべきということ。
高校の教育の実態、構成人員、大学への進学状況を具体的にしらべたうえで、わが子の進学方針を立ててやっていただきたい。
(「伝説の入江塾は何を教えたか」より引用)
実際こういうことに無頓着な親が多いと感じる。早めに学校見学を、と話しても、保護者の方はなかなか動こうとしないし、本人がまだ興味を持っていないなどと言っている。その姿勢いかんで、子どもの勉強への意欲も、学校選択も大きく変わるのに、という思いは多い。
三つ目は、中高の六年間を一貫した視野で見つめるということ。
これも実感する。自分自身がそういった知識もなく、公立中学在学中は遊んでしまい、高校へ入ってからその三年間を大学受験に向けてもっと有効に使えたと痛感したので。
四つ目は、一流大学への軌道に乗せることと、中学の成績とは無関係であることを信じなくてはならないということ。
これについてはあまり解説がなかったが、中学受験を考えるにあたって小学校の成績を参考にできないのも同じような気がする。そういうことも親が知ろうとするかしないかで、違ってくるのかと思う。
公立の中学校へ入ったとして、高校受験の志望校のことしか語らず、その先の大学について注目しないことに疑問を呈しているが、今でもどの高校に行けるかだけを考えている人も多いような気がする。
進学する高校によって、その後の進路は大きく影響を受けると思っている。
だが、地元の中学校では、志望校を調べる宿題が三年生の夏休みとなっている。それまで学校を詳しく知ろうとしない親子は、それから行きたい高校が見つかったところで、そこに照準を合わせて勉強をしていくのは期間が短く大変だと思う。
結局今の成績で行けるところから選ぶのかもしれないが、その先は?と思うことも多い。
そして、六年間で大学受験を考えるとして、中三までに志望大学を決めよ、という。
また、大学への道を考えるにあたり、中学一年生は、親の指導が子どもの性格形成に大きく影響を持つのだそう。
頭の良い子にもタイプがあるとして、彼らがそれぞれどんな環境でどのように伸びていくかも述べられている。
この時期には点数よりも勉強そのものに興味を持たせるということが大事だという。
また、親は黙々とわが子を見守るべきだと。これは耳が痛いところ。
ただ、目先の成績で一喜一憂しないということは中学受験でも言えるなと思った。
中学での勉強も学問研究と同様に取り組むべきで、学年の壁を超えて、どんどん学んでいくこと、また、塾でのキャンプなどにより、勉強から離れて困難に立ち向かうことで得られることなど、内容は盛りだくさんだ。
さらにいくつか印象的だった部分を。
この塾では志望校対策などを一切していない。
ヤマをかけるようなテクニックは否定している。すべてを同じように同じ厳しさで取り組むことを説いている。傾向と対策は一切無駄と言い切っている。
結構厳しい考え方だと思う。私自身は自分の大学受験時、一切の傾向も対策もしないでのぞんだが、それでも大方の大学には受かるものだと思った。
しかし、実際時間はかかったし、特殊な出題傾向の大学には当然ながら歯が立たなかった。もっと傾向や対策ということができていたら違っていたのかな、と思うこともあった。
ただ、長い目で見れば、ある学校に向けての対策しかしないより、全部把握してのぞむということが力にはなると思う。
熱い指導や時には根性論も出てくるのだが、一方で慎重さも大事にしている。
やり直しができない人生だからこそ、慎重な配慮をしなくてはいけない。
自信を持つのは大切だが、真の自信でなくてはならない。
「反省のない自信」はうぬぼれになる。
「軽はずみな自信」はあとで逃げを打たねばならぬから、無意識のうちに、「弁解」を用意している。
(中略)
自分がたくましくあろうと思えば、日ごろから、つねに〝けっして弁解しないし、また、受けつけもしない〟との、きびしい態度を身につけるようにしなければならない。
(「伝説の入江塾は何を教えたか」より引用)
ここが一番息子に伝えたかったこと。少しずつ弁解は減ってきたかな。弁解を許容すると、全てその弁解で逃げることができるようになる。
厳しい塾の合宿からリタイアしたり、塾を辞めていく人もいる。
どうしたら、たくましく、真の自信をもって弁解なく黙々と目標に向かって邁進できるようになるのかな。
後半では少し勉強方法にも触れていたりする。
塾生が高校の先生からの、天声人語を毎日書写することからはじまった国語力をつける課題などは、そのまま実践してみたいと思えるものだった。
ノートに自分自身でまとめる大切さなども書いてある。
時代は違えど、根本的なところは変わっていない。
受験についてのみでなく、生き方について考えさせられる。