悩める子育て

幼児から中学受験→難関校からの大学受験、その先を考える

大学に行ってなにをするのか

大学にはなにが望まれているのか

前回の続きです。

 

vt-maguna.hatenablog.com

 


前回「ジェネリックスキル」が社会で望まれていることで締めましたので、 就職と大学が密接であれば、大学教育でなにが望まれているか、調べてみました。

http://www.aichi-edu.ac.jp/higher-edu/liberal/mt_files/gskill.1.pdf に、とてもわかりやすい解説がありましたので、参考にさせていただきました。

産業界からの要望

経済産業省が平成18年に「社会人基礎力」を大学生に求めるものとして提示しているようです。
3つの能力と12の能力要素 

  1. 前に踏み出す力
    主体性 働きかけ力 実行力
  2. 考え抜く力
    課題発見力 計画力 創造力
  3. チームで働く力
    発信力 傾聴力 柔軟性 状況把握力 規律性 ストレスコントロール力

経済産業省では

企業等で働く人材には、基礎学力や専門知識に加え、新しい価値創出に向けた課題の発見、解決に向けた実行力、異分野と融合するチームワークなどの基礎的な能力が、より一層求められるようになっています。さらには、グローバル人材に求められる資質としても、「社会人基礎力」の重要性が認識されるようになってきました。

社会人基礎力グランプリ要項より 

として、社会人基礎力グランプリというのを開催しているようです。
過去の結果なども載っていますが、学生たちが様々な取り組みをしています。 

教育界の指針

学士課教育の構築に向けて(平成20年3月25日 中央教育審議会大学分科会)より

各専攻分野を通じて培う「学士力」 ~学士課程共通の「学習成果」に関する参考指針~ として、

1.知識・理解として

(1)多文化・異文化に関する知識の理解

(2)人類の文化、社会と自然に関する知識の理解

2.汎用的技能(いわゆるジェネリック・スキル)として

(1)コミュニケーション・スキル

(2)数量的スキル

(3)情報リテラシー

(4)論理的思考力

(5)問題解決力

3.態度・志向性として

(1)自己管理力

(2)チームワーク、リーダーシップ

(3)倫理観

(4)市民としての社会的責任

(5)生涯学習力

4.統合的な学習経験と創造的思考力

説明は省きましたが、これらのことをあげています。
今の大学の教育で、これらのことがどのくらい対応できているのでしょうか。

非専門教育の意義

また、少し古いですが、下記サイトのGuideline 2007年の9月号、「国立大学の教養・共通教育の現状」~非専門教育の意義はどこにあるのか~」 に、興味深い記事が載っています。以下引用を含んだ要約です。

www.keinet.ne.jp

 

「専門教育から見た非専門教育の意義」では 医学教育の立場から、横浜市立大学の後藤英司先生より
勤務医の90%が教養・共通教育は必要と回答 半数以上が心理学と倫理学をあげる
とあります。
患者とのコミュニケーション能力に限らず、

「安楽死、脳死、代理母、遺伝子診断等、医療の現場では倫理に関わる問題が山積み」 

であり、そういった面でも必要と。 医学部1年次には「グレート・ブックス・セミナー」で、「生命や倫理」をテーマとした古典や名著を共に読み、市民を交えて討議するそうです。

また工学系では、東京工業大学の鈴木正昭先生から

東京工業大学には工学系でも文系科目が充実している、世界文明センターというものがあり、そこでは

理工系の学問を学び、研究を進めるためには、創造性が不可欠 

だとして、

世界の第一線で活躍しているアーティストや学者による数多くの文明科目を開講

しているそうです。 世界文明センターはこちら。

www.cswc.titech.ac.jp

とても興味深い講義が揃っています。


鈴木先生は、

理工系には、新しい発想、人とは違うモノの見方ができることが大切 

だと言う。

自分の分野に閉じこもっていては、新しい発想が生まれにくくなってしまうので、別の視点からの刺激を常に受けていることが大切なのです。理工系には、新しい発想、人とは違うモノの見方ができることが大切 

とおっしゃっていて、このあたりが、教養が必要とされる意見なのだろうと思いました。

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企業の学歴重視

今回『学歴入門』(橘木俊詔著)という本を読みました。


14歳の世渡り術という、中学生から大人を対象にしたシリーズです。
そちらから要約ほか。

現在の学歴重視の企業の採用について、戦前は入社後の給与まで大学別に差があったそうです。 また、指定校制度というものもあったそうです。

 今は、誰でも受ける権利はあるようですが、採用の実態としてはどうなのでしょうね。 1966年、ソニーの社長だった盛田昭夫氏が『学歴無用論』を出版して、指定校採用をしないとなったが応募者殺到で採用に困ったという話。

 


学歴無用論 (朝日文庫)


それで、結局指定校制度は永らえたようです。 また、名門大学の学生には実際優秀な人が多い、というのも学歴主義をバックアップしているといいます。

実際名門大学に楽して入れる天才は一握り、他は努力した結果入った、そういう保障である、と。
まとめとしては、

  1. 名門卒の学生が実際いい仕事をしている
  2. その学校に入る時に少なくとも努力をしている
  3. 採用の段階で基準を作る必要がある

といったところで、企業が学歴にこだわる理由としています。

なるほど、現在の採用方法では、じっくり一人一人の学生と対することができないわけですから、基準やら今までの実績で判断するしかないと思います。
できればインターンや、そうでなくても何かのプロジェクトをやらせてその働きぶりを見るなんていうのを採用で取り入れられれば、学歴とは違うなにかも見えてくるような気はします。実際難しいのでしょうが。 

一方で、学歴優秀な人が集まる学校には、そういった冒頭で述べた「ジェネリック・スキル」が高い人が多いのではないか、とも感じています。
実際自分が進学校に入学した当初に、講堂に全校生徒が集合した時の態度には、中学までの、先生が叱責する声が飛び交う動物園状態との違いに驚きました。
さらにその整然とした中でも生徒会長が生徒の態度を嗜めたり、別の時にはうまく盛り上げたりしていることにとても驚いた記憶があります。
私の母校は突出してレベルが高いわけではありませんが。


私を含め、みなさん自分が通える学校は一つですから、他の環境に疎くなってしまうとは思うのですが。


ただ、橘木氏も、学歴は企業に入るまで。企業に入ってからは問われるべきではないとおっしゃっています。 実際どうなのでしょうね。
あまりに学閥頼りですと純粋に企業の発展につながらない気がしますが、実際よからぬことが起こって問題になったりする企業もあるし…。

この本では、大学に行く役割としてやはり、 教養を高めること 社会人として働くための技能を与えること の二つをあげています。

技能に直結した医学とか法学、薬学、農学、工学部、対して、経済学、小学、社会学部などはその後の就職に対するイメージが曖昧な感じ。

それでも、進む学部によってなんとなく進路は決まってきてしまうので、高校時代に偏差値だけで学部を選ぶなと言っています。

東大理IIIを、そこが「最高峰」であるから目指す、という人の話も何回かテレビなどで聞いたことがありますが、実際、そこで学んで医師になるというイメージをきちんと持っていないと、のちのち辛いのじゃないか、と思います。就職はゲームじゃないので。

逆にそんなことを考えているのかと、自分が親ならちょっとがっかりするし、心配にもなりますね。

橘木氏は、教養主義に反対みたいです。
これは意見の分かれるところらしいですが、この本で言われた例えでは、私は納得しませんでした。

確かに現在の企業は昔ほど余裕がなく、我が社流に教育する時間もあまりないのかもしれません。

それでも、個人的には就職活動が大学での学業を脅かしたり、入ってすぐ使える人材を作って出せというような、お仕着せには疑問を覚えます。

また本来は「社会人基礎力」のようなものは大学じゃなくてもいいのじゃないか、とも思ったり。
でも時間をかけてじっくりやるとしたら、やはり大学のカリキュラムの一部としてそういったものもあったほうがいいのか。
もちろん、これらの能力は仕事に不可欠ですよね。

一方、実社会で即役に立つかどうかわからない教養が不要か。
個人的にはなんでも「それって何に必要なの?」と言う人よりはいろいろなことに関心を持つ人になってほしいなと思います。

いろんな知識の化学反応というか、それができるのは多方面の知識を併せ持っていることで、それが新しい発想につながるのではと思うのです。

もちろん、各自それぞれの理由で大学に行けば良いと思っています。
就職のためと割り切ってスキルだけもしくは学歴だけつけばよい人もいるかもしれない。
就職してからの自己実現をどこまで求めるかによっても違ってくるでしょう。
また、専攻によっては、何より専門技術が大事で手一杯ということもあるでしょう。
就活も大変ですから、それに必要なスキルについても考えたほうがいいとも思います。

 

大学入試制度改革も決まり、これからの大学は「ディプロマ・ポリシー(どのような人材を育成して社会に送り出すか)」「カリキュラム・ポリシー(人材を育成するための教育課程・科目の編成方針)」「アドミッション・ポリシー(どのような能力・意識を持った学生に入学してほしいか)」を明確化することが求められるそうです。
具体的にどのような改革や取り組みがあるのか、調べてみようと思います。

 

『学歴入門』では、最後に世界の学歴事情が書いてあって、なかなか面白いです。
階級社会のイギリスではパブリックスクールと公立のグラマースクールがあること、パブリックスクールは学費も高く、限られた人だけが行けるところで、全人的な教育の一方、グラマースクールは学業重視であるとか、フランスはほとんどが公立で、エリートコースはグランゼコールという学校制度であること、ドイツはほとんどが地元の州立大学に進むので、学校による差が少なく、12歳の時点で、大学進学を目指すギムナジウムへ行くか職業教育を受けるかの選択をせまられること。 そのせいで労働者のレベルは高いがトップ層が薄いとか。
同じヨーロッパでもかなり違う教育制度で、それぞれに課題もある。

なにが正しい教育システムなのかは簡単に答えを出せるものではないのでしょう。
今の日本の大学制度も臨機応変に変えていく必要もあるのでしょうね。

 

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