前回の続きです。
子どもを中学受験させた母親である著者が、編集者として子育てに詳しい先生方に話を聞きながら中学受験はたまたそのさきを考えるこの本。
こちらの本をもとに印象的だったこと、わが家でのことを。
志望校選びは子どもをよく見つめて
第一章では著者の中学受験顛末記となっていて、具体的なことが書いてある。
知人の子が通っていると言う理由で麻布中学に行きたいと子どもが言うが、夫婦で息子には向いていないだろうと判断する。
おくてな息子には早熟な子が多いであろう麻布は向いていないと。さらに自分にはかなわないような天才が周りに多くいることで早々にあきらめてしまう可能性があると。
なかなか冷静に見ているのだなと感心した。
知名度もあり魅力的な学校を前にして、実際の我が子が通っていいかどうかを見極めることは一番大事のような気がする。
そして、高すぎる周りから距離を置くという考えは、私も息子の体操教室を辞めさせたところで経験した。
その環境のレベルが高すぎると、ついていけない子は本来なら一般的レベルであるにも関わらず余計な劣等感を持ってしまうのではないか。
さらに目から鱗だったのはこちら。
中学受験では絶大な差があり、高校受験でも多少差があっても、大学受験のゴールの難易度はぐっと小さくなる。中学受験でそういった学校に入れなくても東大に行く人はたくさんいるし、早稲田慶応ならさらに入りやすい。だから、中1なんて小さいときに、自分の能力とかけ離れた人ばかりいる環境に入れてつぶしてしまうのはもったいないと思うのだ。
(『する?しない?中学受験 迷ったときに―大学受験 就活に大成功する子どもに育てる!』より引用。以下同。 )
確かに、中学受験時の差が絶大だろう。
ただし、その環境でどう伸びるかはその子の性格によると思うが。親がどれだけわが子を把握しているかが問われる。
著者の家の志望校選びは「友達になりたい子がたくさんいる」がキーワード。そして大学受験を自らの力で乗り切れる人に育てたくて、付属校でなく進学校にした。
これももちろんその子による。著者も言っているが、行って良い学校というのは10人いればそれぞれ違う。
そして、中学受験をするもしないもオススメしていないことも共感できる。
『中学受験をするなら、そのリスクをきちんと知ってそれを回避して子どもを守る必要がある。そのリスクから守れなさそうなら、受験せずに公立へ進学させることをおすすめする。その場合は別なリスクがあるので、そちらはそちらで回避する必要がある。いずれにせよ、子どもにとって最小のリスクで最大の結果が得られることを目指してあげましょう』
中学受験は危険物である
私も、そしてこの著者の方も中学受験を必ずしもおすすめするわけではない理由が、これ。
中学受験にはリスクがたくさんある。
その一つが、他の受験ではない「指導要領を大幅に逸脱する内容の入試」。
この内容のむずかしさが、最大のリスクであり、他のリスクを引き起こす要因にもなっている。
さらに、劣等感、燃え尽きてしまうことも。
これらはその難しさが起因となる。
塾に通わなければ基本受験準備はおぼつかないが、その塾は営利企業だということ。環境は学校とは大きく異なる過酷な環境だ。
そして、3人に1人しか第一志望には入れないと言われていること。
子どもにはまだ受験にきちんと向き合えるための言わば「受験コーディネート能力」がゼロなんだとか。それで、まさかの不合格も多い。
確かにそれで親がかかりきりにならなければいけない。
子どもの発達と向き合う必要がある中学受験
受験コーディネート能力がゼロの小学生が立ち向かわなければいけないからこそ、中学受験は親の受験と言われる。
だからこそ、親がしっかり情報を得て、何が必要でわが子にはどういう進路が向いているのかを考えなくてはいけない。
この「大学受験を見据えて学校選びをする」のは、中学受験の常識だが、現況では多くの親が必要な情報を十分持たずに選ぼうとしているように見えてならない。もっと大学受験事情にくわしくないと、本当に求めているいい中高一貫校を選べないのでは?と思うのだ。
今になってみれば、自分と違う観点で子どもの学校を選んだ人の話を聞くと、「そういうのもいいかも」と思わされることがある。海外大学受験を見越してとか。そもそも大学受験をせずに何かを長期スパンでなすための付属校受験とか。
「受験コーディネート能力」は、中学受験生にはゼロ。高校受験の時で50%くらい。大学受験時には80%くらい完成しているという。
これを改めて言われてみると、まあ確かにそうかもしれないと思えるのだが、実際その中学受験生の親となってみると、それを忘れて、今の社会経験も何十年もした自分と同じように子どもも危機感を持つべき、と思ってしまいがちだ。
それで「なんでなんども言っているのにわからないの!」と怒鳴ってしまうのだ。
この話は受験生の親の時に聞いておけばよかった。
中学受験はよく言われるように、精神的に早熟な子の方が明らかに有利だということだ。わが子がより幼いタイプだと感じるなら、受験機会をより後へ持っていく方がうまくいく可能性が高まる。
第三章では主に発達心理学者の菅原ますみ先生から取材した子どもの発達と受験について語られているが、こちらも中学受験を決めた家庭には特に参考になる。
中学受験の大きなリスクがこの発達に見合わないストレスだ。
受験生をサポートする親には知っておいた方がいいことが並ぶ。
子どもは中学受験の本当の意味をわかっていない。
だから、
子どもは中学受験に向けては大人が期待するようにがんばれなくて当たり前なのだ!
高校受験時にやっと自己決定能力があるようになり、大学受験時に自己責任能力まで兼ね備えられるようになるというのだ。
中学受験と親子バトルは切っても切れないが、これは子どもの発達の無理解から起こっているのだという。
そうか〜、薄々感じてはいたが、親子バトルが起こったら親が反省すべきということか。
そして、先生は言う。
たとえ受からなかったとしても『いい体験だったよね』というところに持っていけるとすごくいいですね。逆に言えば、中学受験をやらせるんだったらそのくらいの覚悟が親にはいると思います
やっぱり思う。覚悟が必要なのだ。
第四章では具体的な親の役割について。かな〜り大変だ。
具体的な引用は避けるが、こちらで印象深かったのはやはりこちら。
コーディネートの中には、あるところでタオルを入れるというか、撤退する、あきらめるということも入っていないといけない
子どもが受験から撤退したいと言った時、親はかなりつらいだろうが、
親子で親ががまんするか、子どもががまんするかと言ったら、それは断然親がすべきだと思う。(中略)「この子は私ではない。まったく別な人なのだ」と。
また、親の方から撤退させる時。
わが子が強くやりたがっていることに「NO」と言うのはつらい。いまでもできるかどうか自信はない。しかし中学受験はハイリスクなので、「YES」と言う重みは理解しておいた方がいいと思う。「子どもの願いを断る辛さ」と言ったその場の気持ちだけでは中学受験に突っ込まないほうがいいに決まっている。合否によらず、「いい体験にできるかどうか」の成否は、下手をすると一生響く大きな何かになりかねないからだ。子どもの中学受験に「いいコーディネーター」としてかかわれるかどうか、熟考してからするかどうかを決断してほしいと思う。
第五章では、私立と公立のメリットデメリットについて書かれている。
細かく書かれているので、受験に迷われる方には参考になる。
私立のメリットに「先取り学習ができる」がある。
これは私も利点だと思って受験を勧めた。
ここでは、進学塾の調査により、
トップクラスの名門校を除外して、中3時点の学力は、一貫校の生徒より進学塾に通う公立中学校の生徒の方が高くなっていました。
という衝撃の結果が。
早く難易度の高い授業についていけず、
消化不良のまま先に進めるよりは、検定教科書やワークを確実に身につける方が学力はつくのです
とのこと。
息子も苦手な数学の試験前には、学校では使わない検定教科書を1から見直して理解して効果を出していた。
↑こちらの過去記事で取り上げた本にも、中高一貫校の背伸びした教科書や授業で力がきちんとつかない恐れがあることが書いてある。
じゃあなんで高い学費を払ってまで、中高一貫校へ行かせるのよ。
と思った人こそ、この本を読んだり、中高一貫校の学校を紹介したものを読むべきだ。
著者は子どもに中学受験をさせたが、私立と公立についての良し悪しについてはとても冷静に公平に見ている。
実は、息子の学校に高校から入学した人には、この学校が受験対策バリバリの進学校なんじゃないか、と勘違いされている方がいる(逆に中学受験させる母はそこそこ学校情報には詳しいのであまり齟齬がないような気がする)。
私立の学校なのに塾に行かせる家庭が多いというのは、学校の価値は受験対策がメインではないということではないかと考えてみる必要がある。
そういう学校がベストとは限らない。それこそ、何を目的に中高一貫校を選ぶのかによる。
第六章と第七章は、先を見据えた中学受験ということで書かれているが、今の中高生にも参考になることが多い。
長くなるのでまた次回。